〇用語集〇
核医学治療(内用療法)
放射性医薬品を体に注入し、体の中から放射線を照射する治療法です。
投与後速やかにがん細胞に集まる薬剤を用いて、治療したい部分に放射線を照射し、正常な細胞への影響を少なくするとともに、一度で複数の場所にあるがんの治療が行える特徴があります。
2022年1月現在日本では、I-131(ヨウ素)、Y-90(イットリウム)、Lu-177(ルテチウム)、Ra-223(ラジウム)の原子を用いた放射性医薬品が核医学治療に使われています。
- β線治療
β線を放出する核種(Y-90、 I-131、Lu-177)を利用した治療法です。 - 【Y-90】
CD20というタンパクを発現しているリンパ腫(血液のがん)を治療することができるY-90を使用したRI標識抗体療法があります。
治療においては事前に、Y-90の代わりに放射性同位元素であるIn-111(インジウム )を使用したRI標識抗体薬で治療薬が集まるかどうか適正を確認するコンパニオン診断(医薬品の有効性や副作用をあらかじめ予測するために行う検査)を行います。
- 【I-131】
β線を出すI-131という放射性物質が含まれた放射性医薬品は、甲状腺疾患や褐色細胞腫などの治療に使用されます。
I-131標識のヨウ化ナトリウムは甲状腺ホルモンであるチロキシンやトリヨードチロニン合成のために甲状腺に蓄積され、バセドウ病などの治療に使用されます。
また、アブレーション(焼灼)と呼ばれる、甲状腺がんの治療のために行う甲状腺の摘出手術で取り除けなかった甲状腺組織を治療する方法があり、これにもI-131標識のヨウ化ナトリウムが使用されています。
- I-131標識meta-iodobenzylguanidine(I-131 MIBG)という放射性医薬品は、「MIBG集積陽性の治癒切除不能な褐色細胞腫・パラガングリオーマ」に使用されます。体内のがん細胞にI-131 MIBGを集積させ、I-131から放出されるβ線によってがん細胞をたたくことで腫瘍を縮小させます。
神経芽細胞腫の治療にも使用されますが、これについては本邦未承認です。
- 【Lu-177】
β線を出すLu-177という放射性物質が含まれた放射性医薬品は、ソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍の治療などに使用されます。
- 【PRRT】
ペプチド受容体放射性核種療法(Peptide Receptor Radionuclide Therapy)
がん細胞に発現する受容体*1に特定の物質が結びつく性質を利用した治療法です。特定の物質に放射性物質をつけ、その放射性物質が出す放射線でがん細胞をたたくことで腫瘍を縮小させます。
「ソマトスタチン受容体陽性の神経内分泌腫瘍」を適応症とした放射性医薬品が、本邦で使用できるようになりました。
*1 細胞の外からくる様々な物質と選択的に結合するタンパク質で、細胞に存在しています。
*2 「受容体に結合させるための物質」に「放射性物質」をくっつけるためのものであり、強い結合力をもつ有機化合物を間に入れています。
- 【PSMA治療(本邦未承認)】
前立腺特異的膜抗原(Prostate Specific Membrane Antigen)
前立腺がんの細胞の表面にはPSMAというタンパク質が存在しており、特に悪性度の高いがん細胞の表面に通常の数十倍から数百倍発現しています。このPSMAに特定の物質が結びつく性質を利用した治療法です。特定の物質に放射性物質をつけ、その放射性物質が出す放射線でがん細胞をたたくことで腫瘍を縮小させます(PRRTと原理は似ている治療法です)。
- α線治療
α線を放出する核種(Ra-223)を利用した治療法です。 - 【Ra-223】
α線を出すRa-223という放射性物質が含まれた放射性医薬品には、骨転移した前立腺がんの治療に使用されるものがあり、「骨に転移した去勢抵抗性前立腺がん」を適応症とした放射性医薬品が、本邦で使用されます。
このRa-223は、骨の成分であるカルシウムと同じ性質があり、骨代謝が活発になっているがんの骨転移巣に集まります。
そして、Ra-223から放出されるα線が、骨に転移したがん細胞をたたくことで腫瘍を縮小させます。